2017年3月21日火曜日

インフォーマルミーティング「続 デジタル量子コンピュータのつくりかた」

昨日の物理学会で開かれたインフォーマルミーティング「続 デジタル量子コンピュータのつくりかた」で聞いたことと感想を、メモ程度にまとめる。


国際会議に参加されたお二方から、理論面の進展と、実装面の世界の最新の状況の報告があった。


前半は東大の鈴木さんから、今年1月にシアトルで開かれたQIP2017から、最近の理論の動向について。

Martinisの論文が出たあたりから、多くの企業が量子コンピュータ実現に向けて参入してきており、Google+UCSB, IBM, QuTech+Intel, Rigetti, Microsoftなど有名企業のグループがもりもり研究開発している昨今。この実験方面の動きに応じて、理論の中心的課題も変わってきているらしい。

注目されているのが、10~100qubitで、誤り訂正はしないが可能な限り低ノイズで、あまり長い回路にはしないで、古典計算に対する優位性(いわゆるquantum supremacy)を示す、"Near-term device"という。誤り訂正ができる論理qubitを1つ実現しようとする、万能量子計算に向けた方向せいとは異なり、中期的戦略のようだ。実装ガチ勢がこのようなdeviceを作ったとき、どのような実験を行えばよいのか、理論方面の方々の知恵が絞られているらしい。

いくつか具体的な例を紹介する用意をされていたようだが、時間の都合で(前のセッションがずれこんでいて、時間が短くなってしまった)1つの例を取り上げていた。
例として挙げられたのが、"Characterizing quantum supremacy in near term devices"というGoogleのBoixo氏の講演。僕の認識が間違っていなければ「量子コンピュータがちゃんと動いているかベンチマーキングしたければ(どういう結果を吐くか知るためには)量子コンピュータが必要なんじゃないか」という、どうしようもなさそうな状況を、量子カオスにおける性質を利用して打開できるらしい。ゲートをランダムに並べた回路を用意して、その出力がノイズに対してどのように変化するかを見る、という分布の変化のノイズに対する鋭敏性(カオス)を利用したベンチマーキング法だ。arXivに論文が上がっているので詳しくはこちらを。機会があれば時間の都合で省略されたその他4つほどのお話も聞きたい。


続いて、阪大の杉山さんから、先週ニューオーリンズで開かれたAPS march meeting 2017におけるTGQI (Topical Group of Quantum Information)での発表内容について報告があった。TGQIの割合は高く、30人に1人が量子情報をやっているということらしい(日本はどのくらいなんだろう)。

surface code実装への課題として、bitが集積したときの配線の問題があり、平面内にqubitが配置されており、それと垂直な方向に配線をするという3次元化が今の動きらしい。この垂直配線に関して、5つほどのグループの発表について報告があり、qubitがある層とは別の層にreadout/controlがある系や、垂直配線を実装した系など、各グループのbitの配置なども含めた図による説明があった(図なので文章で書けない)。前回の物理学会でのインフォーマルミーティング「デジタル量子コンピュータのつくりかた」においても、東大の田渕さんが実装における今後の課題として垂直配線のことを挙げておられたのだが、もう国際会議で成果が報告されている、という業界らしい。最後に今後の予想をされていて、2021年にはSurface-49と呼ばれる論理qubitくらいまでいくのではないか、という話だった。


感想。はじめ、素因数分解に代表されるような、もし大規模なデジタル量子コンピュータができたら、という理想的な想定のもとで進められた量子計算の理論研究が、今では、近い将来に実現されるデバイスを見据えて、そいつを使って何が示されるかという具体的な方策が練られており、それが活発に議論されているということに、リアリティを感じる。また、その理論研究を触発させているのが、名だたる有名企業による実装に向けた研究開発であり、その勢いにただただ驚いている。

興味があってちょくちょく情報を収集したりしているものの、実際にやってる研究は分野外の冷却原子実験という自分にとっては、このような量子計算ガチ勢の世界的動向の情報共有の場が開かれることは本当にありがたい。冷却原子の世界でも、量子気体顕微鏡の発展に伴って原子の量子状態個別操作ができるようになってきている流れがある中で、どのようなことをやるのが面白いのかということを考える上で参考すべきだとも感じた。どちらのトークも、時間の都合で省略した部分を聞ける機会があれば、と思う。


聞いたことをノートに殴り書きしたメモを、書ける範囲で書き起こしたものなので、内容に誤りがあればご指摘いただければと思います。誤り訂正します。

0 件のコメント:

コメントを投稿