2021年4月1日木曜日

「量子情報春の学校2021」感想 - 1日目 -

 2021年3月26日(金)~28日(日)にオンラインにて開かれた「量子情報春の学校2021」について、内容や感想をまとめておく。

かつては参加した研究会の感想をここに書いたりしていたのだが、最近はご無沙汰していた。読み返してみると当時その瞬間感じていたことなど色々と情景が思い出されるので、メモ程度であっても、文章で記録を残しておくことは意外と大事なようだと思い、久々に書き留める。


昨年2020年に開催が予定されていた「量子情報春の学校2020」がコロナで中止となった。今回のスクールは、そこから1年が経ち、コロナの厳しい状況下で学生が学ぶ機会を喪失することを懸念した中島さん(京大)の発案で、オンラインという形で開かれたものである。ありがたいことに僕にも声をかけていただき、講師として参加することができた。

スクール系のイベントといえば、やはり宿泊地に缶詰めになり講義、ポスター発表、懇親会等で夜中まで話し合うなどして同世代の仲間たちを見つけ交流を深めるのが醍醐味である、というのがコロナ以前の価値観を持つ僕が持ってしまうイメージだ。それができないのは悲しいものだと思いつつ蓋を開けてみると、オンライン開催にもかかわらず、登録者数は500名近くいたそうで、実際の参加者も200人から300人程度と非常に大規模なスクールとなった。学部生の参加者が約半数を占めており、量子情報分野への関心の高さがうかがえる。オンラインだからこそ気軽に参加ができたという面もあったかと思われる。

毎日4つの講義があり、講義後には、1日目と3日目にメンターセッション、2日目はポスター発表があった。以下、時系列的に思ったことを書き留めておこう。

1日目

最初の講義は、森前さんの「量子計算の基礎」。量子計算を一瞬で説明、と言ってスライド1枚で済ませてしまったのはさすがである。ある程度知識を仮定した内容で、初学者は面食らってしまったかもしれないが、量子計算機が速いとされる根拠、計算量の話などの知りたい内容、知るべき内容が充実しており、後々何年たっても配布スライドを見て復習すると学びが得られるだろう、というものだった。

続いて中島さんからの「量子エレクトロニクス実験基礎」。量子技術の基本である、2準位系の操作について、物理系の設定をし、式を追いながら、丁寧に導く内容であった。核スピンであれイオンであれ中性原子であれ超伝導量子ビットであれ、2準位系を電磁場で操作するという本質は普遍的であり、まさに実験基礎として理解しておきたい内容であった。面白かったのは講義の最後に示された、今現場で活躍している研究者が過去にどういった物理系を研究してきたかを示す図。系は違えど、核となる概念は共通していることを示す象徴的なお話だった。

午前は座長として参加していたが、聴衆の皆さんからチャットや口頭でどんどん質問が寄せられ、それに講師がリアルタイムで答えていくという形式になっており、結構インタラクティブな講義になっていたのに驚いた。でも驚いたのは僕だけかもしれない。というのも講師を務めている皆さんも、そして受講する学生も、コロナの中この1年間、「講義」と言えばこのスタイルでずっとやってきたのだろう。僕はこれまでに講義をしたことが無かったし(今回が初講義)、そもそも分子研では講義をする機会が生じないし、ぜんぜんコロナ状況下における大学講義の実態を体験したことが無かったわけで、初めてオンラインでの講義の様子を見て、意外とやれるんだな、という感想を持った。もちろんリアル空間と比べるとライブ感は減るが、逆に質問はしやすいのかも。

午後はいよいよ具体的な物理系に入り、OISTの高橋さんから「イオントラップ量子コンピュータ」について。実験系の話である。トラップ手法、qubit operation、どちらもイチから順を追って理解できるようになっていて手厚かった。特に個人的にはイオントラップでの2-qubit gateの具体的な実現手法について知るのが初めてで、よくイオントラップのアドバンテージと言われるall-to-allのconnectionの気持ちが理解でき、非常に勉強になった。

初日の最後は武田さんから「光量子コンピュータ」について。こちらも実験。分野に入ったきっかけとして「メカメカしい装置を見て」という話があり、確かに僕も3回生の時に高橋研を訪ねてその光学機器に圧倒されたことを思い出す。量子ビット編と連続量編でadvancedな内容までしっかり解説。良い。

初日の全授業終了後、野口さんから「量子教育プログラム」の紹介があった。量子技術教育プログラム(Quantum Education Program:略してQEd)とは量子技術(主に実験)の未来の人材を育てるための教育プログラムで、実は僕も冷却原子担当で講師として参加させていただいている。よろしくね。みんなでプロモーションビデオを見た。動画内に登場する「絶対に不可能な盗聴」のときのがっかりしてる悪い奴が良すぎるので絶対見よう。

最後にメンターセッション。僕も講師として参加。講師陣の中では僕はひよっこで名も知られてないし、正直こんな偉大な講師陣に紛れて存在しても良いのだろうかという不安がありつつ、でも学部のころから研究会や量子情報関西チャプターでかわいがっていただいたお兄様方と混じることができてうれしい。メンターセッションに向けて事前に寄せられた質問に答える形式で「今の研究分野に進んだ経緯」を各々話すことからスタートし、就職のことや時間の捻出方法などについて講師陣から体験談やコメントがあった。時間を捻出するためにはちゃんと寝ること、というのは僕も賛成。後半にはPollEvというオンラインで匿名コメントを書いたりアンケートに投票ができたりできるサービスを使って、よりリアルタイムで質問を受け付ける形式になった。いっぱい質問が流れていって活気が出た。

そしてRemoでの懇親会に参加して初日終了。なぜか結構疲れた。

2日目以降はページを改めて書く。自分の講義の感想など。



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