2020年12月29日火曜日

近況43 - 研究生活編 -

こんにちは。久々の更新になってしまった。

一緒に大型書店の本棚を全部見たいつもの4人で行っている定期オンラインおしゃべりで、早くブログを更新しなさいとのお達しがあったので、さすがに書こうと思う。

前回の更新から1年以上経ったので書くべきことは沢山あるが、普段通り研究生活の話と研究以外の話の2つに分けて書いてみよう。ここでは研究生活について書いて、趣味やその他の生活(結婚したとか)については次回 -研究じゃない生活編- で書きます。


ではまず研究生活について。

今いる研究室に移ってもう2年近く経とうとしている。今年度も装置の開発を進めており、まだ新しい物理を開拓するところにまで至っていない。ひたすら装置の開発を続けるのは根気のいることだが、そのおかげでようやく世界レベルの装置が出来つつある。僕が装置開発それ自体に楽しみを見出せるタイプの人間であるせいで、うっかりそれ自体が目的となってしまいそうになるが、良くない。何とか今年度中に成果を出して論文に仕上げたいところである。

開発ついでに、手動で回していた光学部品(波長板)を自動で回せるようにしたりもした。
3Dプリンターでギアを作ってステッピングモーターとArduinoでPCから制御できる。


今年はコロナのせいで特に出張もなかったが(未来の読者よ、新型コロナウイルス感染症というのが世界的に流行しているのだ今は)、唯一「アトムの会」という冷却原子を中心としたオンライン研究会で招待講演の機会を頂いた。僕にとって初めての招待講演で、機会を与えていただいてとてもありがたかった。今僕がやっている、リュードベリ原子を使った量子シミュレーション・量子コンピューテーションについての講演をした。それなりに気合を入れて準備をして、やれる限りのレビュー+研究内容の発表をした。学生が主なターゲットであると主催者の方に言われ、ついこの間まで学生だった自分が「学生に向けて」という姿勢で話をするのも不思議なもんだなと思う。学生に説明するぞ、という気になると、また一層自分の中での理解が深まるな、と感じた。


「理解」について最近感じていることをついでに書く。

なんでも出来ちゃうハイスぺフランス人同僚がいるのだが、彼の理解に対する姿勢が非常に参考になる。例えばデータを取るにしても、取ったデータは即座に(というか取りながら)解析して解釈し、得られた値の限界を決めているのは何かを分析し、その原因を定量的に特徴づけるデータを取り、整合性を確かめ、文章(実験ノート)にまとめ、それを論理立てて説明してくれる。何か部品を買うときでも、きっちりスペックを調べ、彼にとって初めて知る概念(装置内部の仕組みや性能指標など)を理解し、判断基準を立てたうえで、どれを買うか決める。新しいアイデアを思いついたときは、それを定量化して、数値計算できる場合は数値計算をして、どのパラメータなら実現可能かを洗い出し、それをやっぱり僕にわかりやすく説明してくれる。そして「これ以上は調べても意味がない」というラインを明確にし、スパッと作業を終了し次の行動を決める。このプロセスをやり続けている。どうも、彼にとって目の前の事象を理解するというのは、こういう作業をすることなんだろうな、と見ていて思う。実験屋特有のプロセスかもしれないが、これを緻密に積み上げられるというのは大きなスキルだ。少なくとも僕は、これらのステップのうちどこかでぼやけたことをやってしまいがちだ。

彼から得るものは多い。彼の一部でもいいからインストールしたい。2021年は彼のこのスキルを習得しよう(今決めた)。

たまには実験系の写真でも。中央の透明なサイコロは偏光ビームスプリッターというもの。
垂直偏光は反射し、水平偏光は透過する。
うっとりするくらい綺麗。

今年は何ができただろうか。光学をより深く使いこなせるようになり、装置を開発しただけだろうか。やはり、論文のような華やかな成果がないと、どうも振り返った時に単調に見えてしまう。こうやって耐える時期が絶対に必要なのもわかってはいる。耐える時期を自己正当化できるスキルも、実験屋の持つべき能力だろうか。


近況43、後半に続きます。後半はもっと明るい話題!

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