明日から始まる研究会『量子情報・物性の新潮流』のため、東大物性研のある柏に来ている。7月ももう終わってしまうので近況を書いておこう。
とにかく今月はあっという間だった感がすごい。あっという間業界でもトップクラスのあっという間だったと言える。今月の後半はずっと海外に行っており、昨日帰国したばかり。先々週はミュンヘンにある研究室を訪問しており、先週はバルセロナでの国際会議『ICAP2018 (International Conference on Atomic Physics 2018)』に参加していた。そしてそれらの準備に7月前半を費やしていたので、余裕の無い日々だった。これはすなわち、喫茶店に行ったりしてコーヒーを飲みながらだらだら本を読んだりする余裕がなかったということで、だからあっという間だった気がするわけである。寝ている間に喫茶店に行ってだらだら本を読む夢でも見れたらいいのに。
ざっと海外出張を振り返ろう。
先週はICAP2018に参加し、原子・分子・光、いわゆるAMO分野の最新研究成果を見る+自身の研究成果をポスターで発表した。この業界では最大規模の会議で、2年に1回開催される。ICAPに合わせてデカい成果を報告する人もいる。多体系のローカルな観測および制御の技術が進歩しているのは今に始まったことではないが、もともと冷却原子が持っていた粒子数の多さという強みに加えて高い観測+制御技術が融合することで着実に量子シミュレーションとして古典系の手の届かない所へ向かっているという印象を受ける。Fermi Hubbardでは2Dでhalf fillingから外れて任意のサイト間のcorrelationを見たりしている。Rydbergでもlong range interactionを使った多体の研究が複数報告されていた。また、ポスター発表も含めて分子の研究が多く目につき、バリエーションも豊かになっているようだ。原子でも今やかなりの種類があるのに、それらの組み合わせで様々な分子を作り、冷却しようとしている。polar moleculeでのlong range interactionも今後注視していこう。
自分のポスターは、光格子中の冷却Yb原子を使った散逸ありのBose-Hubbard系の量子シミュレーション。前回論文にしたものと近いが、散逸の起源が違う。同じ原子だしやってることも近いので気になっていたフランスのグループの人と話ができた。お互いがお互いの論文を読んだことがあり、「あの論文の人?」「Yeah!」 みたいな感じだった。自分のやっていた測定手法がなぜベストかという意味付けをその人がしてくれて、自分では全く気付いていなかったので非常にありがたかった。研究内容について話すととりあえず面白がってくれる人は多いが、こういう具体的なコメントをもらえるのは、自分と近い内容を扱っている人と出会うことができる大きな国際会議ならではと言える。他にも、他の人のポスターに行って議論をし、有益なアドバイスや論文紹介ができたり、前回のICAP2016よりもインタラクティブに動けたと感じた。
バルセロナではスリに遭うといったトラブルもなく無事に過ごすことができた。滞在中に「たびレジ」を通じて「バルセロナ市内で銃撃事件が発生したので注意してください」という内容のメールが届いたのでやや焦ったが、「近くで銃声が聞こえた場合の第一の基本動作は「伏せる」です」と書いてあったので何かあった時は伏せようと心に誓い、そして特に何もなかった。空いた時間でガウディ建築を見に行ったりもした。サグラダファミリアの前で「まだできてへんのんかい」とツッコむ、というマジで高校生の頃くらいからの夢だったイベントを実行できた。2026年に完成するらしい。間に合ってよかった。
さかのぼって、ICAPの前の週はミュンヘンに行っており、冷却原子界で世界をリードするBloch研に滞在させてもらっていた。実験室見学と自分の研究のトーク、そしてポストの相談も。
実験室を見せてもらったが、手堅く安定な装置を作っているという印象。非常に整っているし、計画通り組まれているという感じがする。温度管理やパスのコンパクト化により光学系のズレなどは特に無い様子。使っているメーカーや制御系のプログラムなど詳細の情報も教えてもらった。装置の写真も撮らせてもらったので引き続き詳細を確認したい。真空関係など、自分の知識が不十分で質問できなかったのは悔やまれる。また、運転中につき見ることができない装置も複数あり残念。基本的に、各実験を担当している学生に装置の説明をしていただいたのだが、非常に説明が明瞭。背景の物理と得られたデータをまとめたポスターが廊下の壁にかかっており、その前で研究の全体像を説明してもらい、その後実験室で装置の詳細を見せてもらった。理論的背景と実験の詳細のどちらについても、凄く内容を理解していることが伝わってくる。誰がどのように研究の方向性を決めているか、組織の構造について、実験結果と理論(解析解や数値計算)との比較をどのように進めるか、といったことも教えてもらった。総合的に見て、とんでもなくハードに実験しているというわけではなくて、装置・データの取り方・研究のシステム、どの観点で見ても「こうあるべきだよな」という形になっている。物理の深い理解を基礎にしてどのようなデータを取るか方針を決め、安定で再現性良くデータが取れて、しっかりデータについて議論、を繰り返すことができるようになっている。まあお金があるのは感じたが、お金があれば誰でもこうできるというわけではない。が、本質的に全く叶わないという絶望的な壁を感じたかというとそうことでもない。でもそういうところで差が開くということか。
そして、いろいろと研究内容を聞くにつれて自分の興味の絞れて無さを感じてしまった。あれもこれも面白そうだなあ、ではなくて、より具体化していかないといけない。ポストの相談もしたが、結局最後は自分の判断次第というところであり、自分が納得するためにはもう少ししっかり考えた方がいいと正直思っている、ということを伝えた。
2年前にICAP2016に行った頃と比べると、やや英語がまともになってきているという自己評価をした。論文を書いたり口頭発表を経験したし、DMM英会話も一応効果があると感じている。物理の議論や説明で使う表現を日々貯めていくこと、怠けず話す訓練すること、youtubeで面白そうな講演の動画を見ること。
さて冒頭にも書いたが、明日からは『量子情報・物性の新潮流』がいよいよ開催される。ご縁があり世話人として携わっている。非常に幅広い内容の講演が集まっているし、参加者もかなり多い。僕もこの研究会の前身である『量子情報の新展開』及び『量子情報の新時代』で幅広い研究内容を知り多くの人と交流できた。今回も、参加者が可能な限りこの場を有効に活用していただければよいと思っている。もしこれを読んでいる人で参加される方がいましたら是非会場でお声かけ下さいませ。それでは。
バルセロナで売られていたジバニャン |
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