*
**
部屋から外を見ると、京都の街の上空に大きな飛行機が飛んでいた。
上空というには低すぎて、それは地上から百mほどだった。旅客機だった。
旅客機が、大きな影を街に落としていた。
その大きさと窓の位置から、機体はA380だとわかった。
塗装はされておらず、銀のボディが日光を反射して眩しく、蒸し暑い京都の夏がそいつのせいでいっそう暑くなっていた。
それはとてもゆっくりと、飛行船のようにゆっくりと飛んでいた。
僕は桂の下宿先のベランダからその光景を見ていた。
ベランダからは京都の街が一望できて、街の上を飛ぶ飛行機もよく見えた。
僕はその景色を街の西側から見ていたが、気付くと街の東から見ていたりもした。
西側から、東側から、視点は時々変わって、とにかく京都の街と飛行機を見下ろしていた。
自分の目線は機体よりもすこし高く、高台から京都盆地を俯瞰していた。
飛行機はゆっくりと五条烏丸あたりを飛んでいた。
ちょうど街の真ん中あたりだった。
次に景色を見ると、その飛行機は徐々に機首を上に向けていた。
高度は変えず、なお前に進みながら、機首を上に向けながら飛行していた。
徐々に機体はうわずっていった。
すでに飛行機としてあり得ない角度と挙動だった。
それでもゆっくりと前進していた。
そして最後には、機体はその場でゆっくりと天を仰いた。
僕がいるところからは見えるはずのない主翼の上面が見えた。
そして間もなくして、一瞬の静止の後に、その機体は尾翼から地面に墜落した。
一瞬の静止はとても長い時間のようでもあった。
下にはビルがあって、そのビルと混然一体となった。
灰色のビルは黒く燃え上がっていた。
大きな音がしたのだろうか。
それは覚えていない。
ただ、とても大変なことが起こったと思った。
本当に大変なことが起こった。
なにせ、飛行機が墜落したのだから。
同時に、これは夢なのかも知れないと思った。
**
ここまで見て、僕は目を覚ました。
夢だった。
どうも、会議室で突っ伏して寝ていたようだった。
隣で、サークルの同期が同じよう突っ伏して寝ていたので、そいつを起こして、ついさっき見た面白い夢のことを話した。
京都の街を見ていると、飛行機が墜落したこと。
馬鹿みたいにゆっくり飛行するA380が、突如機首を上向きにして墜落したこと。
僕の下宿先のベランダからは、本当は京都の街なんて全く見えないこと。
そうやって自分の見た夢の話をするのが好きだから、僕は彼に今上映されたエンタテイメントを伝えたくて仕方が無かった。
*
なるほど。
僕は目が覚めた時、自分の頭の持つ想像力に感心した。
今、夢から覚めたようだ。
つまり、僕は夢から覚め、そしてまた夢から覚めたのだ。
つまり、僕は夢から覚め、そしてまた夢から覚めたのだ。
どうも2段階で夢に潜っていたらしい。
ベランダから見た景色も、西日が射す小さな会議室も、夢の中だ。
ベランダから見た景色も、西日が射す小さな会議室も、夢の中だ。
こんな面白い夢を提供してくれるなんて、と、嬉しくて仕方が無かった。
これまでにこのような経験が全くなかったかというと、はっきりと覚えていないが、起きた時にここまで喜びを感じるほどの経験が初めてなのは間違いなかった。
そうして、僕は自分の見た夢の話をするのが好きだから、この夢の話を何人かに話した。
0 件のコメント:
コメントを投稿